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副業は魔法少女ッ!

第5章 きららかな表皮にくるまれた残酷


 
 ひどく冷たい大きな家に、その小さな少年は、家族に疎外されていた。

 物で溢れた子供部屋も、有り余るほどの献立に彩られた食卓での席も与えられていた少年は、中学に上がってまもない年端か。両親の一切の関心は、彼に向かない。目も合わせない。口を開けば、彼を貶める呪いの言葉ばかり吐く。
 少年は常に泣いていた。三人家族が暮らすのには広すぎる家の中、暖色のルームプレートのかかった部屋の前に足を止めた少年は、無感情な顔を扉に向けた。その時、彼の赤い目に憎悪がこもった。


 今朝は、眠りが浅い。

 映画でも見ているような夢を彷徨っていたなつるは、灰色の家を抜け出すと、今度は見知った道にいた。


…──東雲さん?


 ルシナメローゼの事務所の裏手に、椿紗の暮らす平屋がある。なつるを含めて、椿紗ともそれなりに付き合いが長く気心知れた魔法少女でも、彼女の自宅に招かれた従業員はいないらしい。

 夢の確信があるからこそ、なつるは、後ろ暗さを感じないで、開け放たれた門を進んだ。


 なつるから見た椿紗は、愛想が良く気立ての良い、饒舌な女。従業員達の悩みや話は親身に聞いてやる一方で、彼女自身の身の上は、謎に包まれている。常に微笑みを絶やさないのは、第三者の深入りを暗に拒んでいるからか。

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