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副業は魔法少女ッ!

第6章 幸福の血肉


 幸福は、何かを踏み台にして成り立つ。

 ルシナメローゼが現実世界と表裏一体だったように、椿紗が親友と呼んだ少女の力は、かつて人々を支えていた。

 少女は、巫女筋の家系の娘だった。

 彼女にも例に漏れない力が備わっていて、椿紗にルシナメローゼと現実世界の関係性を教えたのも彼女だった。

 神秘の奇才に潤いながら、気さくな彼女は、何の変哲もない生まれ育ちの椿紗を気に入った。そして友人同士の時間を過ごす時だけは、彼女にありきたりな人間の表情がいくつも見られた。

 椿紗達にとってはあの世である現実世界。あちら側に少しばかりの不幸がたなびいていていれば、ルシナメローゼは平穏だった。だがそうでない時、成人年齢にも満たなかった巫女の心労は、椿紗の想像を絶していたと思う。人々の期待を一身に集められた少女は、椿紗のよく知る無邪気な彼女ではなかった。しかしルシナメローゼが平穏な時、やはり彼女は年相応に朗らかだった。


 巫女は特別ではない。

 やがて椿紗が確信する出来事があった。

 少女の命があまりに儚かったのは、医療という概念さえなかったからだ。少なくとも彼女に備わるはずの神通力は、彼女自身を救わなかった。

 あまりにも若すぎる内に親友を亡くした椿紗も、それからの余生は虚ろに潰した。


 二度目の少女との出会いは、現実世界と誰もが認める世界だった。彼女にも椿紗にも、互いのことと、ルシナメローゼの記憶があった。彼女を救わなかった巫女の力は、二人の邂逅に一役買ったようだった。

 そこでの少女は、彼女の力を秘匿していた。一般家庭に生まれた彼女に、人々が依存することもなかったが、彼女は世界を幸福にする手段を知っていた。

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