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副業は魔法少女ッ!

第2章 魔法少女の力



 人のかたちをとりながら、人ならざる黒いものは、さしずめ計り知れない怨嗟の堆積だ。それは、どろり濃厚なヘドロに意思でも宿った風で、触れた全ての物体におどろおどろしい糸を引いては、負の情念を手当たり次第に塗りつける。

 黒い概念は、敏捷だ。まるで空腹のまま檻を放たれた野生獣。軒を連ねた家々の植木や柵を破壊しながら、ゆいか目がけて驀進していた。


ゴォオオオオオォォォォ…………

ガゴッ……ドンッ!!



「なずなちゃん!」

「はいっ!」


 逆さに向けたパラソルのような白いフリルのこぼれたフレアスカートを揺らして、桜木の色の髪を二つに結った同僚が、地表に触れる。するとそこから青緑の光が無数に生まれた。それは泡のように気体に舞うと、黒いものとゆいかを隔てて壁を作った。

 ガリッ、ガリッ……と、黒い怨嗟が青緑の泡を引っ掻く。

 地球という星の生気を借りて、なずなの張ったフィールドは、彼女の魔力の出現した直後が最も強固だ。従って時間の経過とともに、小突くだけで弾ける泡も出だす。そうしてついに黒いものがゆいかの扞禦を突き破り、首を掴んだ。



「たぁあっ!!」



 ゆいかは花冠を振り下ろす。

 既にゆいかの魔力を吸収していた花冠は、蛇の動きで黒い物の手首を締めて、引き千切る。断末魔のような声と同時に分断された黒い塊から噴き出た飛沫を避けて、ゆいかはそれと距離をとる。

 喉に、怨嗟の欠片が染みていた。ゆいかは花冠から汚染を受けなかった一輪を抜くと、花びらに回復の魔力を込めて、今しがた締められそうになった首を拭う。そうしながら、片手を失くしてのたうつ黒いものの肩越しに見える雑草の群れに、意思を送った。

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