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アシスタントで来ただけなのに…!

第1章 鬼才漫画家、市川ルイ

市川先生に案内されたのは、扉の隙間から見えていたパソコンの前だった。
液晶には書面のようなものが浮かんでいて、おそらく先程キーボードで打ち込んでいたのはこれなんだろうなっと納得した。

しかし、それよりも目に付いたのはキーボードの上に散乱した錠剤と小さな穴があいた錠剤のシートの山だった。

何の薬なのだろうか、先生は病気だったのか。
高鳴っていた心臓が止まった気がした。この量の薬は一体なんなんだ。異常なまでに多すぎる。
サプリかなにかだと信じたかったが、よく見れば処方箋と書かれた袋が錠剤の山の下敷きになって置かれている。

心配だ。今すぐ先生にこの薬はなんなのか突っ込みたい。
薬のことを聞こうとしたが、先生は物音立てず静かに私の横に立ってデスクの椅子を引いた。

「座って」

はいっと流されるように座ろうとしたが、この部屋には椅子が一つしかないことに気づいた。

「えっと、先生はどちらに腰掛けられるのですか?」

先生は、んっと小さく相槌を打つとデスクの上に置かれていた私の履歴書を手にした。

「僕は床で構わない」

なんてことだ、何故、面接官が床に座るんだ。
私は咄嗟にいやいや!と首を横に振り、座るよう施された椅子の背もたれに手を置いた。

「市川先生が座ってください!私が床に座ります!」

「そうか、分かった」

自分から床に座ると言ったが、まさか面接で椅子ではなく床に座るという状況に仰天しそうだった。

緊張して震えていたはずなのに、そんなのが無かったことになったようだ。

膝を曲げて正座をする。
膝に手を乗せていた腕をピンと伸ばし、背筋を真っ直ぐにした。
そんな私の前で市川先生は椅子に座り、私を見下ろした。
特になにも言わず、顎に手を当てて首を傾げていた。
なんだか恥ずかしい気分になり、ただ俯くことしかできない。

その時ふと、ある違和感を感じた。
そういえばさっき先生は、自分のことを‘僕’と言っていた。
それに声も女性にしては低めだ。
週刊誌で撮られた写真も、実物も女性と言われれば女性と思うが、どちらかと言えば中性的な顔立ちだ。
あとは体つきだ。
とても細くて色白だが、どこか男性らしさも感じる。
もしかして、先生は男性?

「あ、あの」

「なんだ」

私は感じた違和感を、そのまま先生に問いかけた。

「先生は、男性ですか?」

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