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ほしとたいようの診察室

第8章 入院生活は続く



この手の話は、無理に声を出すと墓穴を掘ることになるので、沈黙が賢明である。


空になりそうな吹ちゃんのお猪口に、徳利を傾けた。隣にいる吹ちゃんは、上機嫌でお猪口に口をつける。











「ふたりで、話したらいいよ。何事もなければ、のんちゃんに外出許可を出そうと思って。






……日野くんの監督付きでね」












「……!? ゲホッ」





驚いて、思わず咽せる。気管に入りかけた酒は、じりじりと胸を焼いた。


のんちゃんは……とんでもないヤツを主治医に引いたな……と、気の毒になるが、そんなヤツの同期である俺も大概である。





「そこまで、しなくても。自分でなんとでもやるよ」



これには沈黙を破るしかなくなってそう言ってみたけれど、吹ちゃんはどこか楽しそうである。……まるで、映画でも観ているかのように。



「いや、今回ばかりは『陽太先生』が逃げ腰だから。手伝ってあげようかと思って」


「はぁー。もう……それは、どうも」




これはもう、諦めるしかない。
俺にだって、断る理由はない。
自分の気持ちはわかりきっている。わかりきっているからこそ、この先に進むのが怖いのだ。




この歳になって怖いものがあるなんて、思いもしなかった。



吹ちゃんが注いでくれた日本酒を、ぐっと煽った。






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