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シャイニーストッキング

第9章 絡まるストッキング8        部長佐々木ゆかり

 123 そして途方に暮れる…

 浩一さんに…

 逢いたかった…

 もちろんわたしは彼の彼女として、本気でお母様の心筋梗塞での緊急入院の事は心配をしていた…

 していた、いや、しているのだが…

 今夜の逢瀬が急にキャンセルになってしまった事にも…

 悲しかったのだ…

 どうにもならない理由だし…

 彼も、もちろんわたしも、いや、誰も悪くはない…

 だが、無償に悲しい…

 心にポッカリと穴が空いてしまった…

「はぁぁ…」
 思わずため息が漏れてしまう。

 時刻は間もなく午後5時になる。

 本当ならば、この時間に会社を出て、彼の自宅マンションに先回りで到着をし、待ち伏せするつもりだったのに…

 そしてこの時刻なら余裕で出来た…

 全ては待ち伏せ作戦の計画通りに成功し、彼を驚かせる筈だったのに…


 わたしは腕時計を眺めながら、途方に暮れてしまう。

 今夜、これからどうしようか…

 なんとなくだが、すんなり帰りたくはない…

「ふうぅ…」
 何度目のため息だろうか…
 わたしはアクリル板で素通しの部長室の仕切壁を通して、コールセンター部で働いている彼女達をぼんやりと眺める。

 そろそろ夜勤組が出勤してくる時間だ…

 日勤組は交代し、仕事を終えたらどこかに遊びに行くのかなぁ?…
 ふと、そんな事を思い浮かべてしまう。

 わたしは…

 今夜、どうしようか…

 あ…

 そんな途方に暮れていると、ふと、美冴さんの顔が浮かんできた。

 今夜は空いているかな?…

 まさか健太と連チャンは?…

 あるのか?、無いのか?…

 電話をしてみようか…

 そんな逡巡をしている時であった。

 あ…

 わたしのボーっとした視線の視界の中に、見慣れた顔がひょっこりと現れたのである。

「あっ…」

「なぁんだぁ、佐々木部長もまだ会社に居たんスかぁ…」

 帰った筈の杉山くんがひょっこりと顔を出して、そう言ってきたのである…






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