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シャイニーストッキング

第14章 もつれるストッキング3          常務取締役大原浩一

 172 揺らぐ心の戸惑い…

 それは律子という独特の存在感…
 出自の秘密…
 私の心の中に芽生え始めてきている野心という小さな燻りの火…
 そして凛とした美しさ…
 等々、様々な要因があるのだが…
 ただ何より一番重要な事実は、これからも共に仕事をし過ごすであろう律子との一緒の時間が濃密なのだ。

 もちろんゆかりとも共に同じ目標、仕事という事を見据え、そしてゆかりという存在無しではそのひとつ一つは叶わないのだが…
 なにより律子は私の秘書となり、常に一緒に居るのだ。

 そして律子の秘密と背後の強大な力、パワー…
 またそれに私と律子の見据え、合致したこの先への野望という燻り始めてしまった大きな目標、目的…
 それらの全ての共に見据える先が一つになってしまったのである。

 そして私の中の男、オトコ、オスの本能が律子を心から欲してしまったみたい…
 それが今朝の昂ぶりであるのだと思われる。

 いや、はっきりとそう確信したのだ…

 だけど…
 だけど…
 そんな確信の思いを自覚したくせに…
 ゆかりの着信が無いくらいでも心を騒つかせてしまう…
 いや、そんな自分の小ささに…
 その揺らぐ心の戸惑いに…
 自虐の思いさえもが同時に湧いてきてもいた。

「…ん、どうかしまして?」
 そう一人、グズグズと逡巡し、挙げ句、自虐の思いにまで陥りつつある私に、いつの間にかシャワーから出た律子がそう後ろから声を掛けてきたのだ。

「あっ、い、いや」
 そう振り向きながら応える私の目の前には…
 シャワー上がりにバスタオルを身に纏った女神が微笑んでいた。

「なんかお腹好きましたね、モーニングビュッフェに行きましょうよ」
 まるで私のそんなグズグズとした小さな思いなど嘲笑けるかの様に、明るい笑みを浮かべながら、その女神が囁いてくる。

 そしてその律子の目は私を信じ、愛し、慈しんでくれている、本当に女神の様な暖かく明るい光が宿っていた…

「あ、うん、そうだな、腹減ったなぁ」

 大丈夫だ…

 この律子がいれば…

 いや、ゆかりもだ…

 あ、美冴もだ…

 そうだ、そうだよ、俺は、私は、彼女達全部を手放さないって決めた筈だったんだ。

 尖るって決めた筈だった…

 そうだ、そうだよ…

 律子もゆかりも、そして美冴も…

 手放さない…

 愛するんだ。
 


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