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シャイニーストッキング

第15章 もつれるストッキング4    律子とゆかり

9  突然の出張

「は、はい、あ、あのぉ…」
 さすがにこんな不惑な応対ではマズイと想い…
「は、はい、あのぉ…
『新プロジェクト準備室室長』の佐々木と申します」
 なんとかそう名乗った。

「あぁはい、あの佐々木室長様ですかぁ、わたくし秘書課課長の田中です…」
 そう…
 秘書課課長の田中さんは少し前の朝、大原常務の携帯電話の電源が切れたままになっていた折に、やむを得ずに秘書課に電話をした時に応対してくれた女性であった。
 
「あ、その節は…」
「あ、はい、いえいえ」
 少し緩やかな声音となってそう返し…
「本日、大原常務は急遽新潟出張なさいましてぇ…」
 電話の相手がわたしだと分かって警戒を緩めたらしく、そう言ってきたのである。

「え、新潟出張?」
 そしてそう問い返すと…

「あぁそうだ、そうなんですぅ、大原常務は急遽新潟へ行ったんですぅ、言うのを忘れてましたぁ…」 
 と、わたしの電話の遣り取りを聞いていた越前屋さんがそう言ってきたのだ。

「はい、今朝突然に出張の連絡をもらいましてぇ、留守番転送を承ったんです」

 突然の新潟出張…
 わたしの心はその突然の流れについてザワザワとした違和感と騒めきを感じてきてはいたのだが、ここで直接彼の携帯電話に掛けるとはなんとなく言えなくなっていた。

「え、あ、今日中には?」
 無意識にそう尋ねてしまう。

「はい、いちおう日帰りの予定にはなっておりますが、先方との成り行き次第とは訊いております」
「そうですかぁ、じゃ後でまた連絡します」
「折り返しは?」

「あ、うん、大丈夫です」
 なんとなく…
 そう言ってしまったのだ。

 進捗状況を直接話したかったからかもしれない…

「わかりました、いちおう同行の秘書なは伝えておきますから…
 失礼します…」
 そして電話は切れた。

 だがわたしはその最後の言葉である…
『同行の秘書には伝えておきますから…』
 と云われたその言葉に激しく心が揺らいでしまったのである。

 同行の秘書って?

 そして脳裏に…
『わたし大原常務専属秘書の松下律子と申します』
 以前の、あの彼女の突然の電話の割り込みの会話と独特の声音が蘇り、巡ってきた。

『すっごい美人さんてぇ、甘い、いい匂いがするんですよぉ…』 
 と、いう先の越前屋さんの言葉も想い返ってきていたのだ。
 

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