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シャイニーストッキング

第15章 もつれるストッキング4    律子とゆかり

 11 違和感と疎外感…

 あの時感じた、ほんの僅かではあるが、彼の今までの類とは微かに違う昂ぶり。
 
 今までは、部長から本部長へ、そして出向からの新常務就任という驚くべきスピードで一気に駆け登っていく様相の出世への階段…
 だが、それは直属の上司であり先輩でもある本社の山崎専務の傀儡として引かれたレールに乗っているだけの一方的な出世である、と本人はどちらかといえばやや醒めた感じを漂わせていたし、わたしも彼のドライ的な冷静さを感じてもいた。

 それにまたわたしの目にも、彼のそんな言葉や想いからもそんな感じに写ってはいたのだが…
 あの日の帰り際に見せた、いや、わたしが僅かに一瞬だけど微かな彼の心の昂ぶりの変化を感じた様な気がしていたのである。
 
 そんな微かに感じたその微かな昂ぶりの感じは今まで見てきていた彼から初めて感じた感覚であり…
 そしてそれがわたしの中に微かな違和感を生み、僅かに奥底に残っていた。

 そしてその微かな違和感とは…
 つまりおそらくそれは、彼の心に微かに芽生えた『野心』というほんの小さな燻りの想いをわたしが敏感に感じ取ったが故の違和感なのだろうか?

 彼の野心…
 それは今まで見つめ、見て、後ろを付いていっているわたしには見えなかった感覚。

 だかこそ感じた違和感なのだろうか…
『所詮は傀儡の常務だから』
 確か彼は口癖の様に、何度となく云っていた。

 だが、その想い、考えが変わったのだろうか?…

 そしてもう一つ、心に蠢く『疎外感』という騒めきの想いの感覚…
 それは、果たしてこの会っていない、話してはいないこの二日間に、彼に何かがあった、起きたのだろうか?
 という不惑の想いである。

 それはわたしの知らない場所、時間に、彼の心に変化をもたらす何かが起きたのか?…
 と、いう僅かな不惑と不安の想いの感覚。

 それはわたしの知らないもう一つの彼の姿…
 またそれにはわたしが関わっていないという意味での疎外感。



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