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シャイニーストッキング

第16章 もつれるストッキング5  美冴

 25 渡す…

「あんなオンナにさぁ…渡すんだったらさぁ…」

「あ、え…」
 彼はコトバもないようだ、いや、この突然の豹変ぶりに声にならないみたい。

 ドキドキドキドキ…
 ザワザワザワザワ…
 もう完全に自律神経の暴走のスイッチが入ってしまった…
 それはさっきまでの『ひがみ』という侮蔑の想いのせいもあり、より強いメスの本能の衝動を生む要因となっているようだ。

「そうよ…
 あんな秘書のオンナになんか…
 渡すんだったらさぁ……………………」

『渡す』それは…
 あの秘書に寝とられたと絶望的な憂いを見せた、ゆかりさんへの同情的な慈しみの想いではなく…
 もう既に彼は、いや本当は、彼の心は、あの初めての夜からわたしのオトコ、モノ、所有物であるという意味からのコトバ。

 ううん、彼の、大原浩一というオトコの深層には、わたしへの愛が潜み、隠れていると感じられるが故からのコトバ…
 なぜならば…
 あの夜みたいに、ゆうじの残穢といえる不思議な因果により今夜、ここに導かれたのだから。

 わたしは彼の愛を…
 わたしに対しての愛情をわかっている…
 
 だから、わたしは…
 あんなオンナに渡すなら…
 せっかくゆかりさんに遠慮し、ガマンして盗らなかったのに…
 本当ならば、あの夜からわたしのモノ、オトコだったはずなのに…

 だから…
「あんなオンナに渡すんだったらさぁ…」

 だったら…
『ひがみ』なんて焦燥心も沸かず…
 こんな独占欲の渇望も感じないで済んだのに…
 こんな憤懣の想いを目に込め、見つめる。


「……………」
 すると彼は、この豹変したわたしの目を見ながら…
 ゴクリ…と、ノドを鳴らした。

「あんなオンナに渡すんだったらさぁ、やっぱり、あの時にわたしが盗っちゃえば……
 奪っちゃえばよかったのよ……」  

 わたしはそう囁き、ヒールの爪先で彼の足をツーっと撫で…
 その黒ストッキング脚を絡めていく。

「ぅ………」      
 彼は小さく呻き、絡められた足をビクッと震わせ…
「み、みさ…え………」
 わたしの名前を呟いた。

 その瞬間…
 ズキズキズキズキズキズキ…
 更に強く、深いメスの本能の疼きのスイッチが入ってしまう。

 そして、かろうじて残っていたわたしの理性が…
 常識が…
 メスの欲望の波に、飲み込まれていく……



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