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　8　ゆかり姫の悩み

「ああ、アレかぁ、この前一緒にいた時の電話の女かぁ」

　ドキッとした、ちゃんと覚えてるんだ…
　そして覚えてくれていた事に、少しだけ嬉しかった。

「あ、はい…そうなんですけと…」
「けど…何よ…」
　ゆかり姫が俺の目を覗いてくる。

　ドキッ…

　この目だ、この目に俺は弱いのだ…

　この姫のこの目に俺は、俺の心が、あの初めての夜からひれ伏してしまうのである…

「なるほどね…」
　全てをゆかり姫に読まれてしまうのだ。

「美冴さんとのアレで迷ってるのねっ」

　ほら、ズバリ読まれている…

「駄目だからね、美冴さんを泣かしちゃ」

　おや、まさかゆかり姫も、あの『黒い女』絡みのいきさつを知っているのか…

　そんな目だ…

「駄目だからね、美冴さんは繊細なんだから、大切にしないとさ…」
　ゆかり姫の目が悪戯っぽく光る。

「あ、それはもちろんですよ…」
　やはり全てを知っている目であるのだ。

　昨夜、美冴さんとこんな話しをする程に、何かがあったのだろう…

　あっ、そうか…

　友達って…
　
　そうなのか…

　なんとなく、このゆかり姫と美冴さんなら理解できる。

　昨夜、仲良くなったのだろう…
　長年、このゆかり姫を見て、追い続けてきたのだ、俺にはわかるのだ。

　そして、美冴さんなら安心かもしれない…
　
　カドが取れた、丸くなった、それは美冴さんのせい、いや、お陰なのだろうか…


「そういえばさ、健太に訊きたい事があったんだわ」
「何ですか…」
「ほら、あれよ、そのぉ、わたしってさぁ…」
　なぜか急にゆかり姫が可愛く口ごもる。

　これなんだ、これだよ、やはり姫は変わってきたのだ、こんな表情も、こんな口ごもる事も今までかつて無かった…

「ほら、わたしってさぁ、一匹狼的なさぁ…」

　いや違います、貴女は唯我独尊、天下無双でした…

「だからよくわからないんだけど…」
　要はこうであった。

　「新規事業計画準備室」のメンバーが正式に決定し、揃った訳だから、決起集会を兼ねての飲み会みたいなモノをしなくてもよいのか…
　と、こう訊いてきたのである。

「あ、まぁ、それは勿論、やった方がよいとは思いますよ」
「やっぱりそうよねぇ…」

　俺は急に、こんな事を訊いてくるゆかり姫が可愛く思えてしまうのである…