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夢魔

第2章 植えられた淫呪



「────はあっ」

目を大きく見開くとともにミーシャが飛び起きた。
そこは彼女がよく見知った自分の部屋だった。

「はっ…はあ…」

全身がじっとりと汗ばみ、心臓がどくどく鳴っている。
ミーシャは呼吸を落ち着けてから、脚に掛かっている毛布をそろそろと捲りあげた。
まるで子供の頃に粗相をした時のように、スカートの生地が湿っている。

下着に手を滑らせてみた。 すると今度は白くどろりとした液が指先にまとわりつく。
少なくとも自分のものではない。
すえて苦い臭いがした。
それに混ざり、赤紫色の欠片が光っていた。 小指よりも小さくガラスと似ているが、より硬質で透明感はない。

「あ、ああ……神様、お許し下さい」

ミーシャは両手のひらを顔に押し付けて俯いた。
罪を償う言葉を呟いた。
夢なのか現実なのか分からない。

(夢ならば、なぜこんなに生々しく恐ろしいの。 自分の肌の、この全身を舐められたような感触はなんなの)

13歳になったばかりの少女は今晩も嘆きを繰り返す。

(現実ならば、なぜ覚めるの。 なぜ自分の体は男性を知らないままなの……)


ぼんやりした頭を抱え、ミーシャが二階から階下へとつながる踊り場を歩いていた。
階段の途中にある、出窓の外に目をやると、まだ夜が明けたばかりのようだった。

『とある家柄の出でさ』

夢の中にはいくつかの事実が混ざっていることが多い。 ミーシャの家は、国の中でも高名な魔法学者である、父を持つ。
そんなところも彼女を混乱させている要因であった。

喉がカラカラだったので、彼女はキッチンへ水を飲みに向かおうとしていた。

「ミーシャ、どうした? 青い顔をして」

その声に飛び上がる。
四つ違いの兄のリュカが向かい側に立っていた。 飲み物を淹れたカップを手に、廊下を歩いてくる所だった。
俯いていたせいでミーシャは彼に気付けなかった。

昔からリュカが微笑むと、大人たちはその愛らしさに目尻を下げた。 早くに読み書きを覚え、自然学も、薬草学の成績もいつも一番の兄。
けれどいつからか、ミーシャは兄を怖いと思うようになっていた。

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