甘い蜜は今日もどこかで
第1章 【本当は嫌なのに】
「本当に大丈夫か?家まで送るよ、住所言えるか?」
副社長のその声が一瞬ジロウと被るも何とか気を取り戻し背筋を伸ばして距離を取る。
「副社長、お疲れさまでした、ゆっくり休んでくださいね」
「お、おい、フラフラしてるぞ?頼むから送らせてくれ、そのままじゃ帰せない」
腰から引き寄せられ再び顔が近付く。
ヤバ……日本酒なんか飲ませるから後から脚にキテる。
お酒は強い方なのに私としたことが。
「大丈夫れす……お迎え来るんで」
「え?お迎え?」
バックから携帯を取り出すも中身をぶちまけちゃって「あ〜何やってんだよ」と副社長に拾わせてしまう。
大事な社員証も受け取り、目の前でジロウに電話を掛けてしまっていた。
「ジロウ?終わった……早く来てジロウ……会いたい」
絶対に人前では出さない甘い声。
さっきの「お疲れさまでした」で副社長とは別れたものだと思い込んでいた。
スーツで座り込む私にバックを手渡してくれたから「ジロウ遅いよ」と抱きついた。
そこから記憶はない。
次に目覚めた時はもう家のベットの中だった。
「暑い」と言って脱ぎ散らかしたスーツや下着が周りに散乱している。
つまり、今は裸だ。
どれだけ飲んでも次の日のアラームが鳴る前に目覚めてしまう。
シャワーを浴びるとシャキッとする。
二日酔いなんて言葉は私の辞書にはない。
引きずったことなど皆無。
ジロウ、本当に送り届けて帰っていったんだな。
起きて1人は寂しい。
もういっそのこと、一緒に暮らしちゃえば?って本気で思う。
ジロウはなかなか首を縦に振らないだろうけど。
迎えに来る前に全ての用意は出来ていた私に一番驚いているマヌケな顔。
ビシッと秘書コーデに身を纏いピアスをつけながら「おはよう」と挨拶する私に目が泳いでいる。
惚れんなよ、ヘタレ野郎。
「あ………昨日さ」
「僕と副社長間違われてましたよ」
「えっ!?それで!?私、何してた?」
「危うくキスしそうになってたんで間一髪で引き離しました、僕とそういうことするから酔って区別つかなくなるんじゃないですか、しっかりしてください」
「え?私がジロウを間違える訳ないじゃん」