テキストサイズ

甘い蜜は今日もどこかで

第8章 【ずっといつまでも】






まさか、こんなところで初対面とは。
初めて見る、ジロウの母親。
あ……目元はジロウそっくり。
小さくて品のある喋り方。
遅れてもう一人やって来たのは「姉です」と名乗った綺麗な女性。
お姉さん居たんだ…?
知らない事がまだまだたくさんあったんだなって思い知る。




吉原さんが事情を説明し、労災の事も話してた。
遠くでぼんやり眺めている私は話し終えた後の2人の前に立った。




「あの、私、藤堂椿と申します、ジロウくんにはお世話になっていて……会社の同僚です」




まだ恋人である事は吉原さんの手前、言うべきタイミングではないと判断した。




「あぁ、あなたが椿さんね?息子からチラホラ聞いてます……ね?」と隣のお姉さんと顔を見合わせたお母様が微笑んでくださった。
「そうそう、可愛い可愛いって自慢してたよね」って言われた瞬間、号泣してしまう。




「あらあら」とハンカチを差し出してくれて背中も擦られた。
温かい手に涙が止まらない。
何度も謝りながら止めるのに必死だった。
長引く処置に誰もが不安と闘っている。




ジロウはそのままICUにて過ごす事になった。
「ご親族の方のみ面会お願いします」と言われて動けなくなる。




私…………親族じゃない。
当たり前のように一緒に過ごしてたけど、ただ付き合ってるだけで夫婦じゃないしただの他人だ。




お母様とお姉さんだけが入っていく。
ポツンと残され、歯を食いしばるしか出来なかった。
「待ちましょう」と吉原さんが私を座らせる。




え………私、何してるの?
この先には行けないの?
なんで…?他人だから…?
家族じゃないから…?
同じ建物内に居るのに……
顔も見れないの?
なんで…?ねぇ、なんで…?
ジロウ……会いたい……会いたいよ。
ひと目でも良いから。




1分がとてつもなく長く感じた。
意識はあるの?ないの?
火傷はひどいの?
喋れるの?
どんな説明受けてるの?
すぐに退院出来る?
明日には会える?




昨日も今朝も会ってたんだよ。
触れてた。
ギリギリまで抱かれてた。
嫌な想いたくさんさせて、これからお仕置きしてくれるとこだったでしょう?
何してるの?
会えもしないじゃない。
私、他人だもん。
こんな時に、一番に会えないんだよ。
罰なの?
これがジロウの与えた罰なの?





ストーリーメニュー

TOPTOPへ