甘い蜜は今日もどこかで
第8章 【ずっといつまでも】
「まぁ、でも、迎えは誰か他の人が来てくれるんだな?」
「はい」
「うん、なら安心だ」
「ありがとうございます」
「藤堂さんの仕事ぶりは誰から見ても丁寧だし且つスピーディーで正確だ、でも今回ばかりは自分が思ってる以上に参っちゃってるだろ?だから、俺の前では肩の力抜いてくれ……言われてすぐ出来る事じゃないのもわかるけど、今みたいに泣きたい時に泣いて良いし不安も葛藤も全部ぶつけてくれて良いから」
不器用だけどストレートに伝わってくる副社長の優しさと男らしさ。
ダムが決壊した私に深く突き刺さるものばかりで。
「ちょ、今は優しくしないでください……もう……すぐダメになるから…っ」
こんな泣き顔見せたくないのにグチャグチャだ。
「今だけは許して、これ以上は何もしないから」と抱き寄せられた。
背中をトントンされてまるで小さい子をあやすみたいに。
「ごめんね、あいつの腕じゃなくて」
そんな事まで言わせてしまう。
こんなところ、ジロウが見たら妬いちゃうよね。
でも今は、誰かにこうしてもらいたい。
泣き顔見せずに「大丈夫だよ」って「頑張れ」って励まして欲しかった。
「すみません、もう大丈夫です」
そっと離れて涙を拭う。
メイク直しにお手洗いへ。
泣き顔のまま病院には行きたくない。
定時であがらせてもらうんだから残りの仕事、頑張らなきゃ。
「あれー?どうしたの?眼鏡、珍しい」
泣いたのがバレないように応急処置でダテ眼鏡。
「あぁ、コンタクトちょっと今日合わなくて」
秘書課でちょっと浮いちゃうかな。
その日の仕事は概ね終わらせたら先輩方に「何かあった?」と聞かれドキッとしたけど、私情を持ち込んではいけないと思い本当の事は話せないでいた。
ごめんなさい、いつも気にかけてくださり仕事でもお世話になりっ放しなのに「何もないですよ」と笑顔で壁を作ってしまった。
お見通しだったかも知れないけど、ペラペラ話す事でもないから口を閉じた。
定時で帰る私は深々と頭を下げて退社する。
足がもつれそうなくらい早足で駆けていくから勘付かれてるかも。
でももうそんな事は頭になくて、早く……早く会いたい。