甘い蜜は今日もどこかで
第2章 【曖昧なカンケイ】
「俺が今頑張れてるの、藤堂さんのお陰だから」
スリスリしないで……匂い嗅がないで。
あぁ、ダメだ…………動けない。
筋肉質な腕の中で思ったこと。
これは………フィット感が凄い。
こんな抱き締められたら、心地良いと脳が勘違いしてしまう。
「私が居なくても頑張れる人ですよ、副社長は」
私はそのお手伝いをしているだけ。
あなたが本来の力を存分に発揮出来るように。
「ごめんね、1分経ったらまた仕事の鬼になる……だから今だけチャージさせて」
ズルいな、その言い方。
何も言えなくなる。
「わかりました」とだけようやく言えた。
「ダメな男でごめん、藤堂さんにケツ叩いてもらってやっと自分の脚で立ててるよ」
そうはにかんだ副社長は「よし、今日中に終わらせるぞ」と立ち上がった。
実は、前社長と今の社長……つまり、副社長の父親と祖父にお礼を言われてる。
ボンクラだった副社長に喝を入れてくれてありがとう、と。
ボンクラだったんだ?と笑ってしまったが、私を秘書に指名してから人が変わったように働き出したみたい。
そりゃ我儘言って私を付かせたんだから結果出さなきゃ……だもんね。
一緒に仕事してみて今だから思うけど、楽しいよ。
たまに変なこと言ってびっくりさせられるけどやっと自分の立ち位置わかってきたのかな。
他の秘書たちもザワついている。
副社長の秘書となる人は大変なんだろうねって噂するくらい荒れてた時期があったようで。
「どうやって副社長手懐けたの?」って他の秘書に聞かれて焦った。
何もしてません。
副社長ご自身が頑張られているだけで私はそのサポートです……としか言いようがない。
「藤堂さん、ちょっと」
内線ではなく、秘書課に来てわざわざ呼びに来るのだ。
堂々としてれば良いものの、挙動不審でチラチラこちらを見ながら声掛けてくるからいつも何事かと思う。
恥ずかしいなら内線にしてください。
「こ、これ……」と副社長室で渡されるチョコレート。
え、コレをわざわざ渡す為だけに!?
「あ、ありがとうございます……」
「さっき、営業の橋本と喋ってたけど、アイツも結婚してるからな」
「は、はぁ……存じ上げておりますが?」