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秒針と時針のように

第6章 秒針が止まるとき


「拓。覚えてないとは言わせねえぞ」
 なんとか手紙の続きを読む。
「中学のマラソンで二つ言うこときくって賭けやっただろ。あれ一つ残してたんだよ、俺は。それ今使わせてもらうからな」
 何年前のだよ。
 覚えてるけどさ。
 目線を下にずらす。
「妻にしろ、馬鹿」
「ははははっ」
 つい笑いが爆発してしまった。
 引き笑いしながら顔を膝に埋める。
「くくく……あー、もう。可愛すぎんだろうが、忍」
 にやにやがとまんねえよ。
 殺す気かよ、忍。
「なんで命令形のプロポーズなんだよ……」
 笑いが治まらない。
 くそ。
 くそっ。
 悔しいくらい嬉しい。
 手紙はそこで終わっていた。
 もう一度初めから読もうとしたが、出来なかった。
 唇を噛んでも涙が視界を奪うから。
 忍。
 ありがとう。
 ごめん。
 お前はずっと言おうとしてたんだな。
 なのにオレは言葉もなく暴走ばっかして情けないよ。
 忍。
 手紙を綺麗に畳んで封筒に仕舞う。
 それを握ったままベッドに倒れた。
 カミサマ。
 お願いします。
 忍を抱かせてください。
 今度はちゃんと伝えるから。
 ちゃんと……
「拓」
 目を開ける。
 ベッドのそばに、人影がある。
 夕陽の中で忍が座っていた。
 振り向いて笑う。

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