もうLOVEっ! ハニー!
第4章 暴露ゲーム開始
「今日はこばるはいないの」
部屋の脇の棚からティーカップを用意しながら蘭が尋ねる。
「朝食のあとからいなくなってな」
「噂の弟さんとどこか行ったのかしらね」
ケトルで沸かしたお湯をポットに注ぎ、ロンドンの町並みが描かれたトレイに乗せてこちらに運んでくる。
真っ黒に塗られた爪を魅せるように注ぐ動作の一つ一つが優雅だった。
これは確かに姫と呼びたくなります。
私は一人で頷いた。
あえてつばるの話題を聞き流すように。
「ハーブは苦手じゃない?」
「あ、好きです」
「そう? 良かった」
三人が同時に紅茶に口を付ける。
爽やかな空気が肺に広がった。
「蘭さんは何部なんですか」
「正式には所属してないの」
「姫がこの部屋改造してんのも非公認だよ」
平然と言う二人に呆気にとられてしまう。
「ここにある家具とかティーセットとか全部私物なの。以前はイラスト愛好会が使ってらしたんだけど、いつの間にか誰も来なくなったから……」
悪戯にウインクしてみせる。
来なくなったから拝借したのよ。
そう含ませて。
私はただハーブティーを啜るだけだった。
改めて部屋を見渡す。
西洋の上流階級はこんな部屋なんだろうか。
美弥の部屋にあったのとは種類の違うカーペット。
並んだ花瓶に生けられた花。
右から薔薇、カーネーション、百合、カサブランカ……
壁には油絵が掛けられているが、どうやらこれは元々あったものらしい。
ロッカーの中で埃を被っていたのを引っ張ってきたとか。
「あえて言うなら貴族サークルなんて素敵じゃない?」
「入部条件厳しそうだな」
「簡単よ。外見が貴族ならいいの」
どこまで冗談か、蘭は私を見て合格点ねと囁いた。
「奈己も一応部員だっけ」
「彼はピアノしか興味ないのよ。どんな楽器だってこなせる才能があるのに……たまにここに来ては紅茶を飲むだけなんて幽霊同然だわ」
「新入生が欲しい?」
蘭が人形を抱き締めて不貞腐れたように呟く。
「新入生より執事が欲しい」
「なんで」
「足りないのはそれだけだもの」
姫、か。
外見だけじゃないのは、始まったのがあだ名からなのか、その内面性からなのかは測りかねた。