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もうLOVEっ! ハニー!

第4章 暴露ゲーム開始

 隆人は立ち上がって奥に消えると、湯気のたつ珈琲を二つ持って戻ってきた。
 コトン。
 置いた音の余韻も消えぬうちに鳴海が一つを取り上げる。
「キリマンジャロ?」
「そう。親類から箱で贈られてきてね」
「どうせならブルーマウンテンが良かったわ……」
「気に入らないなら返して」
「やっだ! キリマンジャロなんて最高級じゃないの、うーん! 美味しいっ」
 桃色の声でそう言うが、すぐに演技に飽きたのかまた口の端を下げた。
 それからネイルした爪先で書類をペラペラ捲る。
「なんで不審に思ったのよ」
「んー?」
「あんたらしくないじゃない。新入生に先入観抱いたりなんてさ。あの奈己とか美弥にすらこんなことしなかったのに」
「類がないからだよ」
 力強い声に鳴海が動きを止める。
 隆人はカップの中で波打つ液体をまるで仇とでもいうように冷たい目で見つめていた。
「入寮日の直前の変更。それもつばるを案内した後を見計らうかのような夕方の訪問。入寮するまで家具の話すらしなかったというのに身一つで余裕で現れる神経」
「あまり他の子と差があるようには見えないけど?」
 隆人は珈琲を一口含んで笑んだ。
「鳴海は優しいから」
「なっ」
 低く穏やかな声で名前を呼ばれるとむず痒くなる。
 そう思いながら鳴海は手でパタパタと顔を扇いだ。

 飲み終えたカップが二つ並ぶ。
「誰だろうね」
 独り言のように。
「なにがよ」
 鳴海は帰り支度をしながら尋ねる。
「松園かんな、早乙女つばる、村山薫……誰が一番の問題児に、いや、王になるんだろうねってさ」
 ダン。
 家鳴りか。
 鳴海は言葉の衝撃が実体を伴ったのかと錯覚しそうになった。
 それほど隆人の言葉は重みがあったから。
「賭けない? 鳴海」
「不遜な管理人ね。ジャッジは誰よ」
「必要ないんじゃない」
「おもしろいわね。私はかんなだと思うわ。間違いなく女王になる」
「僕は村山薫だ。今回の件はかなり深く絡んでくると思うよ」
 カツカツと。
 扉に近づいた鳴海が出る直前で振り返った。
「皮肉ね。女王じゃなくて王というのに早乙女つばるの名が出ないなんて」
「はははっ、彼は一番まともじゃないかな。少なくとも、自覚がある分ね」
 ガチャン。
 閉まった扉を見て隆人は首を振った。

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