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どこまでも玩具

第8章 任された事件

 男が突然腕から逃れ、殴りかかる。
「うあああああ!」
 それを避け、腹に拳を入れた。
 多分、鳩尾に命中した。
 鈍い音がして、男が倒れる。
「なんだ、折れてないじゃん」
「晃さんっ」
 他の二人が青ざめる。
 晃と云うのか。
 瑞希を傷つけた主犯は。
「……で?」
 倒れた男の背中を踏む。
 骨を折ったら、しばらく学校には来れないだろうな。
 それはいいかもしれない。
 そんなことを考えつつ、晃の服から携帯を取り出す。
「なにして……」
 パキン。
 躊躇なく二つに割った。
 唖然とする二人の前で、メモリを抜く。
 ライターで炙り、投げ捨てる。
「次は君たちのだよ?」
 カラン。
 無残な姿の携帯が落ちる。
「ちょっ……ちょ、待てよ類沢先生! な、なにを怒ってんの?」
「俺ら、あんたに何もしてねーと思うけど?」
「あははははは」
 類沢は声を上げて笑った。
 闇の中で、その声は残酷なほど空気を貫く。
「そうだよ? 何もしてない。だから機嫌を損なわせたりしないでさっさと携帯よこしなよ」
 カツカツ。
 一瞬の抵抗はあったが、二人の携帯も同じ末路を辿った。
 それらをまとめて屋上から投げ捨てる。
 遥か下で、砕ける音が聞こえた。
「くそ、訴えて退職させてやる!」
「……へぇ?」
「証拠はあるんだ! 見てろよ、すぐに辞めさせてやるからなっ」
「じゃあキミ達は犯罪者だ」
 空気が固まる。
「なに、言って」
 類沢は親指で倉庫を指し示す。
「昨日、あそこに雛谷先生と一緒にあるものが入っていた」
 二人の顔が強張ってゆく。
 類沢はゆっくりそこに歩いた。
「気づかなかっただろうね。なんせ目の前には獲物が転がってるんだから」
 そして、倉庫の扉を開ける。
 中の灯りを点けずに、あるものを手に収めた。
 カタリ。
 隠し簑にしていた木箱が倒れる。
「……まさか」
「その、まさか」
 類沢は月明かりにカメラを掲げた。
「馬鹿な奴ら。一度慣れた場所こそ使う前に確かめないと」
 データのビデオを早送りする。
 すると、すぐに三人が現れ、行為の全てがそこに映し出された。
「その怪我が誰によるものか捜す間、警察はこんなにはっきりした犯罪記録を放っておくかな」
「嘘、だろ……」
 カメラを下ろす。
「嘘じゃないよ」

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