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どこまでも玩具

第10章 晴らされた執念

 瞼に光が差す。
 あぁ、朝だ。
 瞬きを繰り返し、眠気を払う。
 ん?
 両腕が重い。
 頭だけ上げて辺りを見る。
 そして、夢がまだ続いていると思った。
 右腕には金原。
 反対には類沢。
 どうしてこうなったのか。
「あ……瑞希、起きたんだ」
 腕を動かす前に類沢が目を覚ます。
 寝癖で片目が隠れている。
 改めて長い髪だと感じる。
「えと、おはようございます」
「むー……おはよー」
 金原も目を擦りながら起き上がる。
 狭いベッドに長いすをくくりつけ、三人男が並んで寝ている。
 すげぇ面白い状況だ。
 俺は布団から這い出た。
 その間に類沢は部屋から出て行った。
 経験から知ってはいるが、寝起きは本当に良い。
 残された金原を揺する。
「なぁ、今どういう状況?」
「んー? ほら、だから学校に蛇が出てさ……魔女がほら沢山」
 まだ寝ぼけているようだ。
 俺は金原に布団を被せ、一階に降りる。

 類沢はリビングに座っていた。
 髪を整え、着替えも済ませて。
 光を浴びるように、開いたカーテンに向いて。
 煙草は持っていない。
 ただ、空を見ている。
「あの」
「瑞希は親友がいるんだね」
「え……」
 腕を組んでソファにもたれ、こう呟く。
「羨ましいな」
 その言葉が部屋に反響し、波となって鼓膜を揺らす。
 絶句は長くは続かなかった。
「な、に、云ってるんですか。類沢先生らしくもない」
 らしくない。
 本当にらしくない。
 俺は類沢に歩み寄る。
「昨日の約束、覚えてますよね」
「目覚めのキスだった?」
「違います」
「紅乃木を助けに、ね」
 その笑顔に何故か安心した。


 金原が降りてきて、軽くサンドイッチで朝食を終わらせる。
 それから車に乗った。
 持ち物は携帯と財布。
 他に思いつかない。
 金原はバットを持って行きたがっていたが、結局類沢に取り上げられた。
「……戦いに行くんじゃないんだよ」
「オレにとっては戦いです」
 類沢が運転席に。
 俺が助手席に座ろうとすると、金原が押しのけた。
「なに」
「なにじゃねーよ。オレがナビゲーションするから瑞希は後ろで休んでろ」
「あ、あぁ。わかった」
 それから声を潜める。
「あんまり油断すんなよ。昨日瑞希を守んの大変だったんだぞ」
「事実に尾ひれをつけるのは良くないんじゃないの」

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