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どこまでも玩具

第11章 立たされた境地

「類沢せんせ、大好きですっ」

 バチッ。
 目を開き、朝日の光線が部屋を貫いているのを確認する。
 布団を剥いで、伸びをする。
「……また見ちゃった」
 有紗は裸足をスリッパに入れ、カーテンを開く。
 ここのところ、ずっと同じ夢を見ている。
 類沢せんせに告白する夢。
 でも、返事は聞けない。
 せんせの困った顔を最後に現実に引き戻されてしまうのだ。
 せんせ。
 なんで、そんな顔をするの。
 カチッとラジカセの電源を入れ、ロックをかける。
 ハッキリしてくる頭の中で、思いを馳せた。
 こんなに好きになったのは、初めてかもしれない。
 圭吾は仲が良かった流れから付き合った。
 友達だった年月が邪魔をして、圭吾は段々恋人ってのが面倒になってきてしまった。
 デートにも誘わない。
 たまに会うときは遅れる。
 私たちは、慣れすぎていた。
 恋人の自覚もないままに。
 だから、別れた。
―後悔しちゃえばいいんだっ―
 そう捨て台詞を残して。
 着替えながら、二人の写真を見る。
 サッサと棄てちゃえばいいのに。
 自分に呆れる。
「おはよー」
「あんたまた下着置きっぱなしだったわよ。洗濯くらい自分でしなさい」
「はーい」
 ママの小言を聞き流し、学校に向かう。
 足取りは軽い。
 恋する乙女は最強なのだ。
 そう頭の中で叫びながら歩く。
 ポンポン。
 突然肩をたたかれた。
「はい?」
「あ、いきなりスミマセン。あんた片桐学園の生徒だよね。学園どこ?」
 なんだ、この人。
 私服だけど高校生だ。
 誰かに似ている。
 そうだ、宮内瑞希だ。
 背とか、顔つきとか少し。
 でもずいぶん俺様男子ね。
 なによいきなり。
「そうですけど……なんの用?」
「あ? そこの教員に用があるんだよ」
「なに先生よ」
「別に良いだろ」
 有紗は鞄を持ち替える。
「あらそう。わざわざ行って目当ての先生がいなかったら可哀相だから訊いてあげてるのに、無駄足踏みたきゃストーカーでもして行けば? バイバーイ」
「待てよ」
 ゆっくり振り返る。
 黒髪短髪。
 ヴィジュ系のボーカルにいそうな顔立ち。
 好みではないけど格好は良い。
「……ったく。わかったよ。言えばいいんだろ。類沢雅っつー先生だ」
 神様。
 なんなの、この出逢いの意味は。

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