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どこまでも玩具

第7章 阻まれた関係

「聞きたいことがあるのっ」
 こんな季節に屋上に来させられ、俺はため息を吐く。
「……なに?」
 聞かなくてもわかっている。
 反省室から出された後の話も聞いたからだ。
「類沢センセはあんたのどこが好きなの?」
 おっと。
 予想外だった。
 つい、吹き出してしまうほどに。
 予想だと類沢の家の位置かアドレスを尋ねられると思っていたのだ。
 あの後、有紗はリベンジを公言したらしいから。
「は?」
「だから、あんたはなんで類沢センセに好かれてるのよ」
 知らねぇよ。
 俺が聞きたい。
 なぜ、俺だけが特別なのか。
 有紗は詰め寄る。
「ねえっ。類沢センセと外で会ってるんでしょ!」
 その必死さが滑稽なくらいだ。
「知ってどうする? 性転換でもする気か? どうせあいつの好みは男だ」
 有紗が手を振りかぶる。
 スッとビンタをかわす。
「当たりなさいよ!」
「嫌に決まってんだろ」
 女ってこういうところが面白い。
 当たりなさいってなんだ。
 しかし、同時に呆れる。
 俺のことを、類沢の彼女だとでも思ってるのか。
 しかも金原が襲われたと聞いて、一度たりとも温度が変わっていない。
 どういう頭しているんだ。
 付き合ってたことは忘却の彼方なのか。
 冷たい風が吹きすさぶ。
 寒い。
 さっさと済ませたい。
 ノートだってあと三冊写さなきゃならない。
「そんなに知りたきゃ、本人に聞け」
 踵を返すが、ブレザーを引っ張られる。
 なんなんだ。
「知ってるよ! あんたらが類沢センセが嫌いなことくらいっ。センセが好きなあたしが嫌いなことくらい! でもアドレスだけでいいの。教えてよ!」
「本人に訊けって」
 大体類沢とのメールのやりとりを思い出すと反吐が出る。
 内容なんてホテルの指定くらいだ。
 あいつとメールがしたいなんて気が知れない。
「類沢センセがなんて言ったか教えたげよっか!?」
 有紗が怒りながら叫ぶ。
「瑞希に訊けばいいじゃない……だよ?」

 あ、の野郎。

 俺は目眩を感じつつ壁にもたれる。
 家に来たのはやっぱり気まぐれか。
 よくそんなこと言えるものだ。
 頭を手で支える。
 瑞希に訊けばいいじゃない?
 自分が男に犯されてるのに、その男を女に紹介するのか。
 意味がわからない。
 狂ってる。
 この状況が狂ってる。
 俺は有紗を押しのけ、屋上を後にした。

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