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担当とハプバーで

第6章 墓まで連れ添う秘密たち


 月曜は憂鬱だ。
 金曜のライブで異世界の快感を味わってから、土日は新曲作りでメンバーと引きこもり。
 夜は飲み歩いて学生のように二日酔い。
 それが月曜には五連勤という冷水を浴びせかけられる。
 浩司は念入りにアイロンで整えたマッシュルームヘアを指先でいじりながら、入館証をゲートにかざした。
 その目線の先に同僚の背中。
 ついライブの感想が聞きたくなって、早歩きで追いつくと肩に手をかけた。
「おはよ、葉野さん」
「あ、おはよう」
 瞬間、何かが全身を駆けた。
 恐らくそれは違和感。
 背後から触れたのに、いつものようなビクつきもなく、嫌悪もなく、あまりに落ち着いた挨拶を返されたから。
「え……土日なんかあった?」
「なにがよ」
 それを聞いてるんだけど。
 ガヤガヤとエレベーターに向かう人の群れ。
 その流れを遮らぬように足を止めず。
「葉野さんの顔から険が消えてるから」
 列に並んだ隙に、観察する。
 化粧は金曜と変わらない。
 髪型も。
 服も以前に見た事あるコーデ。
 でも何かが違う。
「失礼ね。せっかく、ライブ良かったって言おうと思ってたのに」
「あ、ガチ? やったね 。来週末も来る?」
「それは考えさせて」
 順番が来て、コツと踏み出す。
 アレ、ピンヒール。
 履いてたっけ。
 いつもスニーカーだったじゃん。
 ああ、そういうこと。
「彼氏に靴買ってもらったんだ」
 エレベーターの扉が閉じたので、小声で耳元に囁くと自分の足元を確認するように俯いた。
 それからこちらを見あげた頬が少し赤い。
「なんでもいいでしょ」
 あ、違う。
「オレに誘惑……?」
「バカじゃないの」
 オフィスに着いて並んで降りる。
 座席に着くまで一分ある。
 早く理由を聞き出したい。
「買ってくれたアルバム聴いた?」
「聴いたよ。どの音が有岡くんかわかんないけど」
「愛がないわあ」
「ふふ。でもまたライブ行きたいかも」
「それは光栄」
「お父さんも褒めてたよ」
 一足先にタイムカードを押した葉野に足がついて行かなかった。
「……は?」
 親父?

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