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第3章 連れ出す


 エスプレッソと、安くて薄いパンケーキで有名なチェーン店に入り、案内を押しきって一川は窓際の席を選んだ。
 目を遣るとすぐにウェイターがお冷やを持ってきたので、アメリカンコーヒーを頼んでテーブルに頬杖をつく。
 ルフナの店先までは見えないが、朝の出勤でツカツカと歩く人々を眺める。
 眠気が程よく舞い降りる時間だ。
 電車は休まず走り、車は列を作る。
「お待たせしました」
 百点の営業スマイルでコーヒーを優しく置く男は、恐らく一川の目線の意図に気づいているだろう。
 目を細めて頷き、去っていく。
 人の少ない朝の喫茶店。
 一川はふらりと手洗いに立った。
 洗面器に腕をついて待っていると、ウェイターの男が入って来るなり唇を奪った。
 呼吸の暇すらもらえず、一川は男の首にすがりついて舌をぶつけ合う。
 シャツをまさぐる手が、胸の小さな突起を引っ掻いて、指で押し潰す。
 声が喉で響いて、ガタリと壁に背中をぶつける。
 溢れる唾液を吸いとって、男は身を離した。
 中指で唇を拭い、片目を歪ませる。
「お客さま、コーヒーが冷めますよ?」
「なに言ってんの? 仕事に戻れない体のくせして」
 一川がベルトに手をかけると、男は個室に一川を押し入れた。
 支配下に追いやる熱い視線にくらりとする。
 入店の時からお互いに誘い合っていた。
 こうしたことは中学生の時から慣れている。
 一川の唇の処女を手にしたのは、ゲームセンターの大学生店員だった。
 小銭が尽きるまで格闘ゲームに夢中になった一川は、その店員に声をかけて、お小遣いを冗談半分でねだったところスタッフルームに連れ込まれた。
 あの時の目をよく覚えている。
 品定めして、合格を告げ、支配下におく。
 次の男は百貨店のエレベーターでたまたま二人きりになった初老の男性。
 階数表示のボタンを押そうとした指を掴まれ、そのまま壁に押し付けられた。
「ん……ふ」
 便座に座って前屈みになり、男の性器を口一杯に咥える。
 顎を脱力させ、舌をぐっと出して舐る。
 陰毛が鼻先をくすぐり、指で押し退ける。
 滴ってきた液体が服に零れぬよう、丹念に飲み下していく。
 膨張した男根は我慢を知らないように熱を放った。
 鼻腔に逆流しないように首を反らして飲む。
 ねばついた液体が口を汚す。
 一川は余韻に浸って虚ろなウェイターの目を見上げた。

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