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左手薬指にkiss

第2章 籠の鍵の行方

「お疲れ様です」

 事務室でお約束の挨拶を交わし、庁舎を後にする。
 二台しか残っていない駐車場を車で抜けながら、深呼吸をする。
 休日出勤終了。
 長くなった陽も既に淡い光だけを残して消えている。
 ウィンカーを出して国道に入り、右腕を窓にもたれかける。
 高速に乗ろうか。
 なんとなく飛ばしたい気分だった。
「……ワイン、残ってたかな」
 家のサーバーを思い出しながら低く呟く。
 最近連続で飲んでいるからもうないかもしれない。
 高速の近くで行きつけの店があるから買って帰ろうか。
 無表情で運転しながらも頭の中では絶えず考え事をしている類沢。
 念頭にあるのはやはり昨晩感じた衝動だった。
 独占欲。
 それとはまた違う。
 確かに誰にも渡したくない想いはあるが、だからといって人形のように愛でたいわけでもない。
 ガラスのように扱いもしない。
 始まりの後悔がまだ引いてるのか。
 いや……多分。
 信号無視して飛び出してきた車に急ブレーキをかける。
 若い女が運転していた。
 こちらを一瞬見て過ぎていった表情の意図はなんだったのか。
 随分驚いてたけど、そんなに怖い顔していたかな。

 きっと僕は変わってないんだろう。
 ほら。
 単純だ。
 上手くペットを育てられない少年はそのままゲームの中でも花を枯らす。
 容易く予想ができる。
 保健室通いは小学校から高校まで終わることはない。
 変わるのは教師の顔だけ。
 ハンドルを切る。
 壊したい。
 破りたい。
 汚したい。
 堕としたい。
 似たような色の総合化。
 舌打ちが出てしまう。
 全く面倒な性格にしたものだよ。
 本当に……
 家の通りが見えてくる。
 今夜はどうなるかな。
 理性のテスト。
「ふっ……毎日だけどね」
 バタン。
 車を降りて玄関の鍵を指にかける。
 チャリチャリ。
 鈴ならもう少し落ち着かせてくれたかな。

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