テキストサイズ

ふざけた奴等

第1章 鹿は馬より速いはず

 ガラリと開けた瞬間の馴染みある臭い。
 ああ、体臭ってヤツ。
 なんで同じ人間なのに雄雌でこんな違うんだろうな。

「……むさ」
「りーやん。おっはん」
 夏が既に上塗りする五月の熱気に辟易しつつ振り返る。
 水泳で色が落ちた茶髪に、ボタンが半開したシャツの高松小太郎がにっと笑う。
「おはよん、こたろん」
「ジーダブ終わっちったよ、ダリい」
「愛しのジーダブ?」
「ダブダブ。そしたら二週間だろ」
「頭いいね、こたろん」
「はっはあ、オレ天才」
 調子よく鞄を机に置いた彼の肩にぽんと見慣れた手が乗せられる。
 首を回した小太郎の頬がむにっとへこまされる。
「はい、アホ」
「なぐっち! 天才の頬に何をする!」
「ブームを過ぎた悪戯だ。気にするな」
 名倉由一。
 なぐっち。
 僕らはまあ、友達ってやつ?
 ああ、そう。
 僕は笠羽竜也。
 りーやんです。
 この辺りの地主の笠羽家跡取り。
「つか、ジーダブってなんだよ」
 由一がどうでもよさそうに尋ねる。
「うわ、引くわ。なぐっち。ドン引き」
「今年の流行語じゃねえはずだぞ」
「アルファベットだよ、GW」
「……くだんね」
「おい、先に言うなよ。りーやんっ! あとくだらなくねえぞ。ペンタブレットとかもペンタブって言うんだ。同じだ」
「じゃあ、お前クリスマスのことクマスって略すのか?」
 由一の言葉に苦く顔を歪める小太郎。
「……それはねえわ」
「ジーダブもねえんだよっ!」

ストーリーメニュー

TOPTOPへ