
ジェンダー・ギャップ革命
第9章 安息を望むには苦しみ過ぎた
私達を馬鹿にしてる!あんたみたいな女の恥の口車に乗せられて、私達は高い税金を払わされてきたの?!
性的殺到者は貴様だー!自分を棚に上げて……私の良人は、テメェらが無駄金で作った収容所とかいう施設に送られた、あの人を返せー!!
市民達が事務所の真下に群がって、声を荒げる日も出てきた。
泰子の支援している虹色団体や、長沼の街頭演説は、まだおとなしかったのだ。
今にしてそう思えるくらいには、デモプレートをいよいよ武器に持ち替えかねない彼女らは、その日も熱心に出動していた。
愛津が織葉と雑用から戻ってくると、この有り様だ。
「入り口、塞がれちゃってる……隠れた方が良いよね……」
「行こう、愛津ちゃん」
役所から預かってきた資料を抱えて、愛津達は、今来た道を引き返した。
駅に戻ると、電化製品の量販店から、えれんの声が聞こえてきた。
今頃、彼女は記者会見に出ている。ショーウィンドウの液晶テレビに映った彼女は今まさにその会場にいて、愛津は、織葉に視線を送る。
「お母様は、あんな大勢の前で話せるような人じゃなかった。繊細で、臆病で、傷付きやすくて、だから人の痛みに敏感な人」
「…………」
「自分の幸せなんか、考えてこなかったよ。周りの人達が、女性達が幸せならって、それしか考えてなかったよ。責められる部分なんかないのに」
織葉は、まるで他人を擁護している言葉つきだ。ただでさえ芸術的に無駄な肉づきのなかった彼女は、ここ数日で、いっそやつれた。病的な顔色の儚ささえ、愛津の目に妖しく映るのは、愛慕という色眼鏡を通してしか彼女を見られないからか。
