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緋色の罠

第2章 緋の想い

 わたしは今でも夫を愛しているのか。どうなのだろう。

 夫への穏やかな愛情は感じる。しかし愛しているかどうかはっきり言ってよく分からない。夫と同じように、一緒にいることに慣れてしまったのだと思う。

 恋人時代の感情は冷めてしまっても、わたしの女の身体は別だ。性的な欲求は冷めることなく、歳を重ねるごとに日増しに強くなっている気がする。

 仕事を持っていれば気が紛れるのかもしれないが、結婚を機に辞めてしまった。すぐに子供ができると思っていたし、その時は仕事にそれほど興味がなかったからだ。

 毎朝、仕事に出かける夫を見送り、掃除や家事をやり終えると庭の手入れをする…けれど広くもない庭で、毎日する必要があることは限られているから、家の中でひとりきりで何もしない時間ができる。

 夫は何か習い事でもしたらどうかと勧めてくれて、わたしはそうねとその時だけは前向きな返事をするのだが、なぜか外に出かける気になれない。

 テレビ番組は好きではないので、家の中で雑誌や本を読んで、飽きるとリビングの窓から庭を眺めて…そんなある日、ソファに座っていつものように読書をしていると、急に身体の奥に熱い疼きを感じた。

それはずっと前からそこにあったのだが、直視するのが嫌で無視していた強い性的欲求だ。

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