一夜限りでは終わりたくない
第1章 一夜限りの関係
亮も夏美も、なんだかもうどうでも良かった。
怒りを通り越して、呆れていたのかも知れない。
ただ気になるのは、昨夜私を抱いた男だ。
薄暗いバーで見た時、どこかで見た顔だと思ったが思い出せない。
端正な顔で美しいが、男の色気も感じる。
きっと俳優の誰かと似ているとかで勘違いだろう。
あんなイケメンを知っている訳がない。
もう一度会いたいわけでは無い。
ただ、お詫びは伝えたいと思っている。
記憶の薄い私が何かしていないか不安もあった。
その時、同期で友人の里香が話し掛けて来た。
「ねぇ知ってる?藤堂グループの御曹司がうちの会社の副社長に就任するんだって…会社に来る楽しみが増えるよね…目の保養にもなるしね!」
「藤堂グループの御曹司って、誰?」
「えーーー知らないの!藤堂 翔也(とうどう しょうや)独身で完璧イケメンだよ!もう最高って感じだよ。」
私は会社内の情報や流行に疎い。
すると里香は私を呆れた目で見ながら溜息をついた。
「奈々はさぁ…本当に仕事以外は見えてないよね…亮君のことも私は知ってたよ」
「里香!なんで知っているの?」
「夏美は朝から昨日の事を言いふらしていたのよ…亮君と愛し合っているところを奈々に覗かれたってね…奈々が物欲しそうにしてたとか言いたい放題だよ」
恐らく、そうゆう噂は面白おかしく伝わるのは早い。
きっと営業部は、ほぼ全員知っているのだろう。