一夜限りでは終わりたくない
第1章 一夜限りの関係
藤堂副社長は秘書の運転する車で来ていた。
私はとりあえず車に乗せられた。
助けてくれた御礼を伝えたいが、なぜここが分かったのか知りたい。
何から話してよいのか沈黙していると、藤堂副社長が口を開いた。
「桜井さんっといったな…迎えに来るのが遅くなりすまない。」
「い…いえ…あの…なぜここに来てくれたのでしょうか?」
藤堂副社長は一度頷き、ゆっくりと話しを始めた。
「高柳とはガキの頃から知り合いなんだ。…あいつは高柳前総裁の孫で政治家一家の生まれなんだ。ただ、政治家になりたくないと反抗したあいつは、数年間だけ自由に働くことを許されてあの会社の部長職をしている。そして俺は皆が知っている通り、藤堂グループの直系の跡取りなんだ。だから幼いころから政財界のパーティーには連れて行かれていたんだよ。そこであの高柳と出会っているんだ」
「でも…なんだか藤堂副社長を良く思っていないように思いますが…」
すると、藤堂副社長はフッと小さく笑った。
「あいつとは学校もずっと一緒だったんだ。俺は家が厳しいこともあり、勉強も努力した。その結果いつも学年トップを取れていた。…しかし後で聞いた話なんだが、あいつはいつも俺の次だったらしい。さらに、あいつの初めて出来た彼女が俺に告白してきたんだ…もちろん断ったが、あいつは俺のせいだと逆恨みしている。」
「それで、藤堂副社長を目の敵にしているのですね」
すると、藤堂副社長は隣に座る私の方に向きを変えた。
そしていきなり頭を下げたのだ。
「ほんとうにすまない…俺たちのことで巻き込むことになってしまった。警戒はしていたが、まさかこんなに早く嫌がらせをしてくるとは…俺のミスだ。」
私は慌てて言葉を出した。
「そ…そんな…頭を下げないでください。助けに来ていただいただけでも感謝しています。」
「高柳をずっと尾行させていた者から見失ったと連絡が入り、内心焦っていた。念のため、あいつの家に来てみて良かった。」