
かすみ
第1章 モデル
「ポーズの研究、してくれるの?かすみさん」
「ええ。…描きやすいように。どんな角度がいいのか、どんな光の当たり方が肌に綺麗に出るのか。自分で鏡を見ながら試してみます」
かすみはソファの端に座り、ガウンの裾を軽く押さえながら脚を組んだ。割れ目から覗く太腿の白い線が、亮輔の視線を一瞬だけ引きつける。彼女はそれに気づいているのかいないのか、カップを両手で持ち、湯気を吹きかけてから口をつけた。
「高校の頃の先生がよく言ってた。『技術が先に立つな』って。何を描きたいか、何を残したいかがないと、ただの上手い絵になるだけだ、と」
「で、エリカさんは今、何を描きたいんですか?」
「かすみさんの気配」
すぐに答えが出た。自分でもはっきりと言葉にしたのは初めてだった。
「形だけじゃない。肌の色とか、胸の大きさとか、腰のくびれとか……そういうものも大事だけど、そこにいるっていう感じ。息をしてる感じ。少し緊張してる感じ。時々『やだ』って呟く感じ。そういうものを、絵の中に留めたい」
「次は、どんなポーズがいいですか」
「大丈夫です。私、仕事だから」
彼女はそう言いながら、目元にかすかな笑みを浮かべた。その笑みが、モデルとしてのものと、女としてのものの間で揺れているように、エリカには見えた。

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