ヒュリカ ~僕だけをみて~
第3章 誘拐
ガチャガチャ…
横目で鍵なしのポストと
[櫻井]とマジックで書かれた表札を見ながら
アパートの203号室のドアノブを回す
『ただいま…』
いくら待てど返事は無い
少し落胆している自分に気が付いた
おかえりって言うあの優しい声を
またどこかで
期待していたみたい
もういないのに……
胡桃は、リビングに百合の花と一緒に飾られている笑顔に、もう一度、『ただいま』を言った
胡桃の家庭は母子家庭であった
父親がいない
それでも胡桃は特に不満はなかった
母がいればそれで十分であったのだ
ひとりぼっちの夕食、テレビを付けて寂しさを紛らわした
自分の為に働いてくれている母のことを思えば
弱音など吐けなかった
胡桃は中学を卒業したら働くつもりだったが
母に大反対された
結局、母に押し切られて1番近い都立高校に進学することに決めた
辛い受験勉強の後、掴み取った合格に
母は涙を流して喜んだ
胡桃は母に少しでも負担をかけたくなくて、バイトを始めることにした
近所のファミレスでのウエイトレス
慣れない仕事で凄く疲れたが、お給料を初めて貰ったときは、誇らしい気持ちになった
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