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光の輪の中の天使~My Godness番外編~

第1章 出逢いはある日、突然に

 夏の訪れを予感させる陽射しが少し湿った地面に光の輪を描いている。ほのかに水気を含んだ土は、しっとりと潤い、雨上がり特有の清々しい匂いをひっそりと発散させていた。
 実里(みのり)はアンティーク調の簡素な木製ベンチに座り、うつらうつらと浅い微睡みにたゆたっていた。雨上がりの梅雨の昼下がりは、薄手のコットンのワンピースだけでは少し肌寒い。こんなことなら、やはり家を出がけに上にカーディガンを羽織ってくれば良かったと少しだけ後悔する。
 と、ふいにけたたましい泣き声が実里の耳を打ち、彼女は心地よい眠りから現実に引き戻された。
 眼を開き顔を上げると、砂場で転んだ小さな女の子が泣きじゃくっている。
 実里は慌てて立ち上がった。走ろうと思っても、既に妊娠も六ヶ月に入っているお腹では小走りにしか走れない。
「理(り)乃(の)?」
「ママぁ」
 理乃は実里を見るなり、飛びついて大泣きした。
「どうしたの?」
「りの、転んじゃって、血がいっぱい出てるの。痛いよぉ」
 見れば、小さな脚の膝小僧がわずかにすりきれ、血が滲んでいる。
 実里は理乃を安心させるように微笑みかけた。
「そこの水道できれいに洗おうか。そうしたら、バンソーコーを貼ってあげる」
 理乃が泣きべそ顔で言う。
「パパはまだ帰ってこないの?」
「パパも初めて来る町だって言ってたから、珍しいんでしょ」
 このI町は実里一家の暮らす町からは電車で30分ほどの場所にある。海沿いの静かな、時間が止まったような小さな町だ。
 今日は日曜で、柊(しゆう)路(じ)の仕事も休みだしということで、娘の理乃を連れて電車のちょっとした旅を楽しむことにしたのだ。無人駅の改札を過ぎると、すぐにこの公園が眼についた。柊路は初めて訪れる町が珍しくて仕方ないらしく、漁港までちょっと脚を伸ばして見てくると言って、行ってしまった。 
 それほど遠くでもないのに、まだ一度も来たことのない町は、そこはかとない郷愁を漂わせる港町だった。海の近くのこの小さな公園にも、かすかな潮の香りが漂ってくる。

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