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Memory of Night 番外編

第5章 美少女メイドを捕まえろ!


「ほんとそこ引っ張るな、おまえ」


 宵は呆れたように瞳を細め、軽くため息をついた。

 でもすぐに、口元に笑み乗せる。


「あ、笑った」

「……笑っちゃ悪いのかよ」

「いや、可愛いなーって」

「暗くて見えねーだろ、顔なんて」

「宵のことならなんだって見えるんだよ、心の目で」

「気色わりー」


 今度は声をあげて笑う。

 それから宵は再び晃に背を向け、歩き出した。


「家、来るんだろ?」

「え?」


 思わぬ言葉に、晃は反射的に聞き返す。


「おまえんち、仕事で誰もいないっつってもたまに帰ってくる時あるじゃん。俺んちなら誰もいないし」

「なんだ、最初からそのつもりだったのか。本当に君は素直じゃないな」


 晃は宵の隣に並び、歩幅を合わせる。

 そして、寒さで冷たくなった手を握った。


「あーあ。明ちゃんに一泊だけメイド服借りてくれば良かったな。そうすればコスプレプレイができたのに」

「やめいっ、変態!」


 晃は笑った。

 手は繋いだまま。

 二日間に渡る文化祭は、ようやく完全に、その幕を閉じた。きっとあとから振り返れば、いい思い出になるはずだ。

 冬の澄んだ空気の中を、心地よい倦怠感に抱かれながら、二人は家路を急ぎ歩みを進める。

 月がその背を、いつまでも照らしていた――。


――END――

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