テキストサイズ

××UnderDiary

第15章 俺はきみほど愛していない


 戌原西地区とは少し距離を置いた公園――昨日悠理と出会ったその場所で、朽無文芽はジャングルジムの頂上に腰かけていた。

 午後八時を回った公園に人影などひとつもなく、その場を照らしているのは数本の街頭と月明かりのみ。

 文芽は昨日と同じ土木工事現場で働く青年のような格好をして、ただただ不敵な笑みを浮かべていた。

 第三者から見れば完全に不審者だが、運がいいのか人気がないのを見越してなのか、公園の前を素通る人間は一人もいない。

 そうまるで公園の主のように居座っていた文芽が横に置いている学生鞄をひと撫でしたとき、公園にひとつの人影が下りた。

 その人物を眺めて、文芽はニイっとアリスを見下ろすチェシャ猫のように笑った。


「やー、ヒロくん。久しぶり」

「…………」


 アリスなんて可愛らしさを微塵も含んでいないその人物――矢代千尋は、おどけた文芽に一切反応せずにただただ無表情だった。

ストーリーメニュー

TOPTOPへ