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狼と白頭巾ちゃん

第7章 誘う声

(私、親切にしてくれたヒトに、まだ名前言ってなかった!あ…、けど、知らない人だし、お母さんに叱られちゃうかな……?でも、でも優しいヒトだし…。だけど……。ううん、でもっ…………)

考えがぐるぐる巡るばかりで、一向に答えが出ないライラの必死に悩む姿は、シンにとっては、それすらもとても可愛らしく見えた。

(あれ?なんだか、悩んでる。ふふっ、可愛いなぁ、口を窄めて眉間にシワが寄ってる。眉が八の字だ。腕組みしたりして、きっと色々考えてるんだろうなぁ。考えすぎて段々俯いてきちゃったけど。あぁ…、何だかあんまり可愛くてずっと見ていたい気分だ)

もう、ライラが何をしても、何もかもがシンには可愛らしく映っていた。

しかし……、


胸が…、チクリと痛んだ。

淡い想いは、森でハンターとして生きてきたシンには甘く、甘すぎて、柔らかすぎて…。

少女を見つめる彼のその胸には、少しづつ棘の様な澱が溜まっていく。

胸の内に、言いようの無いモヤモヤした気持ちが浮かんできて、だから、もうそれ以上、黙っていることは出来なかった…。


シンは微笑みながら口を開いた。もし、ライラがその微笑みを目にしていたら、きっと一瞬で虜になっていたであろう色気と、そして、儚さを含んで…。

しかし残念ながら、ライラがその微笑みを見ることはなく、またシンも見せる気など、無かった訳だが。

「ねぇ、ねぇお嬢さん?」

「う〜ん…、んっ⁈」

思い悩むライラに救いをもたらした、シンの言葉。

それは、先ほどシンにサラリと躱された、ライラの問いに対する、答えでもあった。

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