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第1章 リセット

目が覚めて直ぐに考えた。寝起きにも関わらず頭は冴えてる。何故なら命がかかっているからだ。
 とりあえず玲奈を連れて行くのは止めよう。逃げた先で落ち着いたら呼べばいい。問題はあの男からどう逃げるか、なかなかいい案が浮かばない。

 しばらくして部屋を出た。あの男が待っている場所に向かうためだ。
「お待ちしてました。それではスイッチを」
男が手を差し出した。ジャケットのポケットを探る。
「ほらよ」
差し出された手を払いのけ、男の左胸にナイフを突き刺した。上手く肋骨をすり抜けて、心臓に到達したのだろうか、胸に血がじわっと滲んだ。

 男が倒れると直ぐに空港へ向かった。人を殺したとは思えない程冷静に手続きを済ませて飛行機に乗り込んだ。

「これで大丈夫だ。逃げ切ってやったぞ」
飛び立った飛行機の中でそう呟いた。

 その時、もの凄い轟音と共に機体がまるで大地震が起きたかのように大きく揺れた。
 外を見るとエンジンが火を噴き黒煙を上げている。機内はパニックに陥っていた。ツイてない、そう呟きスイッチを押した。死ぬのは御免だ、目の前が眩しくなる。

 気がつくとパニック状態の飛行機の中にいた。なぜだ?慌ててダイアルを確認すると、1minuteと表示されている。
 とんだミスをしたものだ、ダイアルを変えようとするが動かない。何度やっても駄目だ。その時、機内でアナウンスが流れた。

「無駄ですよぉー」

あの男の声だ。声にならない叫び声を上げると周りの乗客、乗組員が一斉に静まり返ってこちらを向いた。
 皆、目をカッ見開いて、ケタケタと笑っている。あの時の顔だ。

「よくもやってくれましたねぇ。痛かったですよ」

 叫びながらダイアルを合わせようとする。しかし合わない。狂気に満ちた笑い声と地面に迫る飛行機の中で必死にリセットさせようとする。

「ごめんなさい!ちゃんと返しますから許して下さい!」
 心の底から叫ぶと目の前が眩しくなった。助かるんだ!そう思うと涙が溢れた。

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