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第2章 二

僕は彼に連れられ屋上に向かった。

と、エレベーターが視野の端に入る。

動くのだろうか。

それを横目で見ながら、通り過ぎる。

階段を上がり、鉄の扉を開くと屋上に出た。

屋上にはテーブル、椅子が影に置かれ、パラソルもある。

他には何もない。

彼は持って来たカメラをテーブルに置くと、僕を呼ぶ。

そして僕を中央に立たせると、両腕を上げるように言った。

言われたことを僕は実行する。

太陽が眩しい。

「両手を重ねて、太陽を遮って。そう、顔を上に向けて」

シャッターを切る音がする。

「今度は片手を太陽に翳して、指を開いて」

僕は言われるまま。
彼は指示を出す以外話さない。

「今度はここに来て座って。手を光の当たる場所に出して」

コンクリートの上に僕の指が影を作る。

それを彼が写真に収める。

それから何回かポーズを変え1時間ほどで撮影は終了した。

彼と一緒に部屋に戻る。

「僕はこれから撮ったものを現像する。陽が落ちる前にもう一度撮影をしたい。それから夜にも」
彼はいったん言葉を切ると唇を嘗める。

「それまで時間はある。外に出てもいいし、ここに居てもいい」

僕がここに居ると言うと彼は頷いた。

そしてカメラを持ってドアから出ていく。

姿が見えなくなるとほっとした。

やはり緊張しているようだ。

モデルというのは気を使うものなんだなぁと思った。

しかし…僕は自分の手を、指をまじまじと見る。

『綺麗な指』

そんなふうに言われたのは、はじめてだ。

自分でそう思ったこともない。

彼の言葉が再び蘇る。

鼓動が早い。

どうしたというのだろう。

自分は男に興味がない。

今だって付き合っている彼女がいる。

そっと自分の手に触れて見る。

僕の指は細い。

かといって女の指のようでもない。

わからない。

わからないことだらけだ。

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