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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第3章 孤独な貴公子

 通りを歩いてくる若い男が丁度、自分たちの前まで来た時、浄蓮はやっと秀龍の身体をそっと押しやった。
 漸く浄蓮から解放され、秀龍はもう怒り心頭に発していた。
「浄蓮!」
 しかし、浄蓮の懸命な面持ちを見て、秀龍はハッと息を呑み押し黙った。
 浄蓮は自分と秀龍を見て、凍りついているもう一人の男を見つめた。
 任準基が信じられないといった様子で眼前の二人を眺めている。
「これは、任家の若さま」
 準基が何かいうよりも先に、浄蓮が機先を制した。
「その男は―」
 物問いだけな眼からさりげなく視線を逸らし、浄蓮は明るい声音で応えた。
「皇家の若さま、皇秀龍さまでございます」
「皇秀龍―。皇氏といえば、礼曹判書のご子息か?」
「いかにも」
 秀龍は初対面の相手にも臆さず、極めて慇懃に申し分のない態度で頭を下げた。
「そちらは」
 暗に問いかけた秀龍に対して、準基はいまだ硬いままの表情で応える。
「生憎と我が家は代々、中級官吏止まりにて、礼曹判書どののご子息に名乗るほどの家門ではありません。私自身、来年の科挙を目指して勉学中の身にして、いまだ任官もしておらぬ有り様です」
「では、あなたも受験なさいますか。私も実は来年、初めての挑戦を致すつもりです。私は武科ですが、貴殿は?」
 秀龍が控えめな親しみを見せて問うのにも、準基は頑なな態度を崩さない。
「そのお若さで科挙を受験なさるとは、たいしたものだ。礼曹判書どのの嫡子であれば、科挙などわざわざ受けずとも、お父上のご威光ですんなりと官職に就けましょうものを」
 高官の子弟は父親のツテで、科挙を受けずとも官職に就ける。中にはそれなりの官職を得てから、後で形式的に受験する者もいた。

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