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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第3章 孤独な貴公子

「それでは、兄上。〝中庸綱紀〟は、今しばらくお待ち下さい。ジスンの試験が数日後ですから、終わり次第、借り受けて代書屋に持ってゆきます」
 一礼して、部屋を出てゆきかけた時、背後で兄の声が聞こえた。
「済まないな」
 首だけねじ曲げるようにして振り向く。
「何を水臭いことをおっしゃるのですか。私は兄上の弟ですよ」
 〝弟〟の部分に力を込めると、兄が心底嬉しげに頬を緩めた。
 両開きの扉を静かに閉めると、準基は庭を照らす初夏の陽差しを見つめた。
 視線を上に投じると、どこまでも蒼い空が涯(はて)なくひろがっている。清々しいほど曇りのない空だ。
 既に陽差しは真夏と変わらないほど強く、容赦なく照りつけ、こうしてじっと立っているだけで、じっとりと汗ばんでくる。
―私には、どうやら、この先もそなたのように生涯の想い人を見つけられそうにはない。
 兄の今し方の科白が今更ながらに準基の胸を締めつけた。
 少年時代、兄には婚約者がいた。むろん、両班家のことゆえ、親同士が決めたものであり、当人同士の意思は全く反映されてはいなかった。一度も許嫁の顔を見たことはないままに、兄が十七歳の時、婚約は向こうから一方的に破棄された。

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