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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

 たとえ、それが幻の一夜限りの花であったとしても。また、重大な秘密を抱える身では、けして客と交わることはできないのは判っている。ならば、男を褥で悦ばせる手管ではなく、芸で生きる―まさに妓生という職業の真骨頂で勝負してやろうとも考えるようになっていた。
 そのためには、諸芸万端を身に叩き込んでおく必要がある。かつて現役の妓生時代に芸の名手と呼ばれた女将についていれば、それも可能であったはずだ。しかし、女将は浄蓮に対しては無視を決め込んでおり、取りつく島もない。
 あれほど険悪であった明月と浄蓮の仲が嘘のように睦まじくなり、また明月も女将にそれとなく取りなしているのを考えれば、女将の態度がもう少し軟化しても良さそうなものだ。
 もしかしたら、女将は浄蓮のあまりの情の強さに辟易してしまって、本当に愛想を尽かしてしまったのかもしれない。
―お前の勝ち気さがいつかお前自身を窮地に追い込み、下手をすれば、滅ぼすよ。
 女将のあのときの声は、これまで聞いたことのないくらい冷え切っていた。
 あの頑固さ、意固地さでは、機転の利いた柔軟な対応を必要とする妓房では到底やってはゆけない、この娘は見込みがないと、はっきり烙印を捺されたのだろうか。
 頬に熱いものが流れているのに気づき、浄蓮は苦笑した。
 全く、男の癖にめそめそと考えて泣いてばかりいるってのは、どうも格好悪い。おい、泣いてばかりじゃ、それこそ女の腐ったみたいなのになっちまうから、良い加減に泣くのは止めろ、俺。
 と、自分で自分を叱咤してみる。
 自分は妓房で女たちばかりに囲まれている中に、本当に女になってしまったのではないか? と考えることもあった。まあ、本当にそんな奇想天外なことが起こり得るのであれば、いっそのこと本物の女になってしまうのも悪くはない。女になれば、色々と無駄なことを考える手間も省けるだろう。

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