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麗しの蓮の姫~炎のように愛して~【BL】

第5章 天上の苑(その)

 両親と食事を取っている最中でさえ、浄蓮のことが頭を離れなかった。息子に甘い母親は準基の体調を心配して、急に食の落ちた息子に高価な人参を呑ませたり必要以上に構ってくる。それが余計に煩わしかった。
 床に入れば、せめて浄蓮の花のような笑顔を夢に見られるかと期待してみても、眼は冴えて、かえって眠れない。無理に眠ろうと眼を閉じると、皇秀龍と抱き合って情熱的な口づけを交わしていた浄蓮の姿がちらつき―、カッと身体が熱くなった。
 あの娘は既に秀龍のものになっているのだろうか。そう思うと、秀龍の逞しい身体と浄蓮の白いたおやかな身体が淫らに絡み合う場面まで浮かび上がってくる。
 準基は、そんな破廉恥な想像しかできない我が身を恥じ、自己嫌悪に陥った。そんなときは飛び起きて庭に出て、闇雲に剣をふるった。庭木であろうが、花であろうが、何構わず縦横無尽に薙ぎ払うのだ。
 己れの身体に巣くう醜い妬心、欲望を鎮められるものならば、庭木がどうなろうが、知ったことではなかった。
 準基と両親が暮らす母家とは庭を挟む形で、兄の居室が建っている。兄は病がちでもあり、離れのような一戸建てを与えられている。それが体の良い厄介払いであることは明らかだ。
 よもや、その居室の扉が細めに開き、兄が気遣わしげに夜毎、剣を振るう準基を見守っていたことなど知りはしない。
 浄蓮への報われない思慕に恋々と身を焦がして半月以上を経たある日、準基は意を決して屋敷を出た。
 たとえこの想いが報われることがなくとも、浄蓮が皇秀龍のものであったとしても構いはしない。
 浄蓮はいずれ妓生になるのだと聞いている。こんな考え方はしたくはなかったけれど、彼女が妓生になり客を取るようになれば、自分もまた客として登楼し、彼女を敵娼(あいかた)に指名できる。たとえ偽りの関係であっても、浄蓮をこの腕に抱き、あのやわらかな身体に存分に溺れるのを許されるのだ。

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