向かいのお兄さん
第53章 崩れ
『返して…返して、返して…!!』
「…」
ドン ドン ドンと
何度も叩いたけれど
雅也さんはいっこうに返してくれない
『直也…もぅあたしのこと、嫌いだから…!!
あたしなんて嫌いだから…!!』
受け取ってくれない
食べてくれない
笑ってくれない
何も
してくれない
『お願い…返してぇ…』
「美咲ちゃんが食うくらいなら、オレが食う」
『え…?』
顔を上げると、あたしが作ったお菓子は
雅也さんの口の中に飛び込もうとしていた
『だめぇえええー!!!』
届く距離まで下がったお菓子を
あたしは取り上げて
とっさにお腹に抱え込んだ
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