向かいのお兄さん
第54章 好きだから、食え
「な?
直也にあげるんだろ?」
優しい声でそう言われて
あたしは頷いた
一度の頷きじゃ満足できなくて
コクコクと、何度も頷いた
ただ、ギュッと目を閉じると
涙が何度もこぼれた
『直也に…あげるの…
直也に食べてほしぃから…』
「そうだろ?
だから自分で食べちゃったら、意味ないだろ?」
直也と同じ声だから
余計に励まされた
「もう一回、届けてやったら?」
あたしは
走った
無我夢中で
雨とか
跳ね返る水とか
全部無視して
直也の住んでるマンションへ
走った
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