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向かいのお兄さん

第57章 共に歩んで




「患者は呼吸困難になっています!」


「吐血からパニックになっている!気をつけろ!」



「母さん!母さん!!」






いろんな人が

いろんな方向から


それはそれは大きな声で叫んでいた




この場で浮いていたのは、きっとあたしだけだ


この四角い箱の隅っこで、体を縮こませてその状況を見ているだけ


でも、でもさ…



だからってあたし、どうしたらいいわけ?




『な…直也…』





聞こえるわけがない


あたしだって今口から出た言葉が聞き取れないくらい周りがうるさいのに


なのに直也は「母さん!」って叫びながら



乱暴にあたしの手を握ってくれた





『…っ』




ギリギリと締め付けてくる


正直、痛い



でも



その痛みがあたしをここにいる理由にさせてくれた




『…大丈夫ですよ、大丈夫です』




あたしが言えることは、これだけだった



そのとき、女性の口元がふっと緩んだ気がしたのは、あたしだけだったのかな?






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