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雪の華~Memories~【彼氏いない歴31年の私】

第5章 LessonⅤ キャッツ・アイにて~孤独なピアノ~

「夢を叶えてくれる場所」
 聡はまだ茫然とした様子で、輝の言葉をなぞった。
 輝はなおも踊る真似をしていたが、やがて、ハッと現実に返り頬を赤らめた。
「ごめんなさい。私ってば、何を一人で勝手なことばかり喋っているのかしらね」
 三十一歳の世慣れた女が取るには、あまりにもみっともないふるまいだ。そう思うと、恥ずかしさに居たたまれなくなった。聡はさぞ呆れているのではないか。
 短い沈黙が流れた。やっぱり、聡さんは私のこと、呆れてしまったんだわ。
 輝の心が絶望と落胆に染まりかけた時、聡が唐突に言った。
「輝さん、そんなことを言った人は君が初めてだよ。この店を俺の夢だと言い、ここを訪れる人が心の中に大切にしまってある夢を叶える場所だなんて。そんな風に考えたこともなかったし、教えてくれた人もいなかったんだ」

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