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雪の華~Memories~【彼氏いない歴31年の私】

第5章 LessonⅤ キャッツ・アイにて~孤独なピアノ~

 こっちにと手を引かれ、輝は聡に誘導されるままに歩いた。聡は店の中央にあるグランドピアノの前に輝を導くと、そっと背を押して椅子に座らせた。
「俺も一瞬だけかもしれないが、君の夢を叶えてあげたいんだ。弾いてみて」
「聡さん」
 輝はハッとして聡を見上げた。
 絡まる視線。彼の瞳の中にある意思をこの時、彼女は明確に理解することができた。
「随分と高級そうなものなのに、私なんかが触っても良いの?」
 恐らく時価何千万という単位のピアノではないだろうか。だてに音大のピアノ科を卒業したわけではない。その程度の鑑識眼は持っている。
「もちろん。ピアニストの卵さんに弾いて貰えるんなら、ピアノも本望だと思う」
「判った。それでは、弾かせていただきます」

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