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身代わりの王妃~おさな妻~続・後宮悲歌【후궁 비가】

第10章 第二話 【桔梗の涙】 切ない口づけ(キス) 

 だが、今夜は違う。きっと自分はあの意思を持った生き物のような焔に呑み込まれ、頭からばりばりと食い尽くされ灼き尽くされてしまうに違いない。
 もう一度、振り向いた時、焔はいよいよ迫りつつあった。
 と、突如として誰かが呼ぶ声が聞こえてきた。
「明姫、明姫」
 明姫は眼を開いた。濃い翳を落とす長い睫(まつげ)が細かく震え、棗(なつめ)型の瞳がぱっちりと開く。
 ぼんやりと白濁していた視界がゆっくりと鮮明になってゆく。次いで、霞みがかかったような意識が急速に醒めていった。

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