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身代わりの王妃~おさな妻~続・後宮悲歌【후궁 비가】

第10章 第二話 【桔梗の涙】 切ない口づけ(キス) 

 明姫はまた倒れてユンを心配させないようにと、今度はゆっくりと歩いた。狭い牢の隅から隅までが随分と遠い距離のように思える。気力と体力を振り絞って漸く格子戸の前に来ると、くずおれるようにへたり込んだ。
「このような場所にお越しになってよろしいのですか?」
 微笑んで彼を見上げると、ユンは絶句した。
「そなたという女は。自分がこれだけ弱っているというのに、まだ私の身を案じるのか?」
「私なら大丈夫です。ただ、立ち上がることがどうしてもできないので、このまま座ってお話し致しますが、どうかご無礼をお許し下さい」
「明姫―」
 ユンの声が震えた。幾筋もの涙がユンの頬をつたい落ちていった。

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